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盛岡地方裁判所 昭和38年(行)5号 判決 1969年5月29日

盛岡市新築地一五番地の一

原告

岡部岩雄

右訴訟代理人弁護士

榊原孝

盛岡市本町通三丁目八番三七号

被告

盛岡税務署長 石川兵一

右指定代理人

光広竜夫

長谷川政司

高橋満夫

帯谷政治

村岡景隆

柏谷篤郎

右当事者間の課税処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

原告は、「被告が原告の昭和三二年度所得税額につき昭和三五年一二月二〇日直(所)第二三四号昭和三二年分所得税更正通知書をもつてした再更正処分並びにこれに伴う重加算税額賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

一、原告は、原告の昭和三二年分所得税につき、昭和三五年三月一五日、別表一の確定申告額欄記載(山林所得金額六一一万二、五〇〇円、所得税額一八八万〇、八七〇円)のとおり申告したところ、被告は、昭和三四年三月三〇日別表一の減額更正処分額欄記載のとおり減額更正処分をなし、ついで、昭和三五年一二月二〇日付直(所)第二三四号昭和三二年分所得税更正通知書をもつて別表一の再更正処分額欄記載(山林所得金額四、五三八万五、〇〇〇円、所得税額二、〇四五万一、四一〇円)のとおり更正する旨の再更正処分並びにこれに伴う重加算税額賦課決定処分をなし、同日、原告において右通知書を受領した。

二、しかるに、右更正処分並びに重加算税額賦課決定処分は、基本である山林所得金額算出の基礎に誤りがあるばかりでなく、所得税の算出についても、当然控除すべき損失金を控除しない誤りがあるから違法である。

三、原告は被告に対し、昭和三六年一月一二日右処分の再調査の請求をなしたところ、被告は同年四月六日右請求を棄却したので、原告は同年五月四日仙台国税局長に対し審査請求をなしたが、右審査請求に対する裁決の通知がなく三ケ月以上を経過した。被告はこれより先の同三五年一二月二一日から同月二六日までの間に、原告の所有不動産および鉱業権等に対して滞納処分たる差押をなしているため、右審査請求に対する決定を待つたのでは、公売等の処分によつて原告は著しい損害を蒙る虞がある。

四、よつて、本件再更正処分並びに重加算税額賦課決定処分の取消を求める。

第三、答弁

一、認否

請求原因一の事実は認める。同二の事実は争う。同三の事実のうち原告主張の日に再調査請求および右請求に対して棄却決定がなされたこと、原告主張の日に審査請求がなされたが、本訴提起時(昭和三七年一〇月二日)までに右審査請求に対する裁決の通知がなされていないこと、原告主張の日に、その主張の差押がなされたことは認める。

二、主張

1  被告の調査の結果に基づいてなした本件再更正処分における課税標準である山林所得金額(別表一の再更正処分額欄記載の山林所得金額)の算出方法およびその数額は別表二記載のとおりである。別表二記載の山林所得の総収入金額のうち秋田木材株式会社(以下、秋田木材という)分の収入金額の計算の根基は別表三、以下同必要経費のうち取得価額は後記(一)、管理費は後記(二)、譲渡経費は別表四、総所得のうち配当所得の金額は別表五、不動産所得の損失は別表六、事業所得の損失は別表七、全体の所得にかかる共通経費は別表八、各記載のとおりである。

(一) 別表二記載の取得価額五八七万八、六七八円の計算根基

(1) 盛岡市繋所在山林(以下、繋山林という)分三九一万〇、四九〇円について

(イ) 繋山林は、原告が昭和二二年一二月三日に杉本合名会社より代金三〇〇万円で買受けたもので、うち土地代に相当する金額二五万円を差引くと立木相当分の取得価額は二七五万円となる。

(ロ) 右二七五万円に対し、資産再評価法(以下、再評価法という)第九条および第二〇条第二項の規定による同法別表第六の取得の時期に応ずる倍数二、二倍を乗ずると、その再評価額は六〇五万円となる。

(ハ) 昭和三二年度の繋山林の収入金額は七、二一四万一、一一九円(別表二)であり、そのうち一二〇万円は、後記(第五の二記載)のように日本電柱工業株式会社(以下、日本電柱工業という)との取引における電柱材搬出費に相当するのでこれを差引き(右費用は譲渡経費として必要経費に算入している)、七、〇九四万一、一一九円に対応する取得価額は、次の算式により計算した。

<省略>

右算式中の繋山林立木の総売上高の明細は別表九記載のとおりである。

(2) 盛岡市寺田所在山林(以下、寺田山林という)分一九六万八、一八八円について

(イ) 原告が、昭和二八年六月一〇日訴外近津義則から買受けた寺田山林の取得価額は一、七〇〇万円である。

(ロ) しかして、昭和三二年度の寺田山林の収入金額六八万六、〇〇〇円(別表二参照)に対応する取得価額は、次の算式によつて計算した。

<省略>

右算式において、売却石数按分により計算したのは、昭和三一年以前の売上金額が不明で収入金額に応じた按分計算が不可能なためである。なお、右算式中の全伐採石数の明細は別表一〇記載のとおりである。

(二) 別表二記載の管理費七六五万九、三九一円の計算根基

(1) 原告が繋山林を取得したのは昭和二二年一二月三日であり、右取得後の右山林管理費は、昭和二三年一五〇万円、同二四年から二六年までは各年二五〇万円合計金九〇〇万円である。同二七年以降は管理費を上回る間伐材の売上収入があり、管理費はこの収入金額により十分賄われ実質的な費用負担がないから、同年以降の管理費は算入しない。

(2) 右金額に対し、再評価法第二〇条第二項の規定による同法別表六の各年の最高倍数を乗ずると再評価額は一、一八五万円となる。そこで、前記昭和三二年度の繋山林の収入金額に対応する管理費は次の算式により計算した。

<省略>

(3) 寺田山林については管理費の支出はない。

2  本件再更正処分の課税標準たる山林所得金額に対する所得税額の算出の過程は、別表一一(重加算税額欄を除く)記載のとおりである。

3  本件重加算税額賦課決定処分は、原告の本件確定申告書の提出が、所得税の基礎となるべき事実を隠ぺい仮装したところに基づいてなされていたので、別表一一の重加算税額欄の摘要欄記載の法条を適用し算出したものである。すなわち、原告は別表二記載の収入金額のうち秋田木材分一、五〇〇万円と清枝木材株式会社(以下、清枝木材という)分五五〇万円のみを原告の昭和三二年分山林所得として申告したもので、右のうち秋田木材分の申告は、別表三記載の原告と秋田木材との間の昭和三二年一月三一日付契約に関して真実の売買契約を隠ぺいするため虚偽の売買契約書を作成し、それに基づいて申告したものである。

第四、右主張に対する原告の答弁

一、認否

1の事実中、別表二記載の山林所得の総収入金額のうち秋田木材分、日本電柱工業分収入金額は争うが、その余の収入金額は認める。同表樹種、石数欄記載の樹種、石数を同表金額欄記載の代金額をもつて売却したことは認める。秋田木材収入金額の計算根基である別表三記載の山林取引代金支払関係は認める。別表二記載の山林所得の必要経費(取得価額、管理費、譲渡経費)はすべて争う。右取得価額の計算根基である(一)のうち(1)繋山林分(イ)ないし(ハ)はすべて争う。同(2)寺田山林分(イ)は認めるが(ロ)は争う。管理費の計算根基である(二)の(1)ないし(3)、譲渡経費の計算根基である別表四はいずれも争う。

別表二記載の総所得のうち配当所得の金額(およびその計算根基である別表五)、同不動産所得の損失(およびその計算根基である別表六)、同事業所得の損失(およびその計算根基である別表七)、全体の所得にかかる共通経費(およびその計算根基である別表八)およびその余の項目については原告は認否をしない。

2の別表一一(重加算税額欄を除く)については原告は認否をしない。

3の事実はすべて争う。被告主張の売買契約書は、訴外向井僑、同木村政義において便宜作成したものであり、また、山林所得の一部のみを申告したのは、原告の昭和三二年度の総所得が全体として欠損となり、山林所得についても寺田山林について帳簿外に林道敷設など多額の出費があり、日本電柱工業の売却分も後記のように貸倒れ損失となつて、その余の山林収入によつては右欠損を償うことができず、その他繋山林については後記のように被告主張の売上金額全額を昭和三二年の収入金額とみることはできないので、当該年度伐採検石数量に見合う金額を概算申告することとし、結局一部のみの申告に止めた事情にある。

二、原告の主張

1  山林所得の総収入金額のうち秋田木材分について

原告と秋田木材間の別表三記載の各売買契約は、林班指定によつて立木を特定し、契約と同時に立木の所有権が移転するいわゆる立木契約ではなく、伐採検石の上引渡の都度立木の所有権が移転する出材契約である。しかるところ、税法上山林所得の権利確定の時期は所有権が移転する時、所有権移転の時期が明らかでない場合は契約が効力を生ずる時とされている(国税庁長官基本通達一-二〇一)から、本件において昭和三二年中に権利が確定した金額、すなわち、収入すべき金額とみられるべきものは、原告が同年中に一応受領した金六、〇〇五万二、九一〇円のうち同年中に出材検知の上現実に引渡がなされた石数に対応する金額だけに限られなければならない。しかして、昭和三二年中に出材検知の上現実に引渡がなされたとみられる石数は、昭和三二年一二月三日に検知石数と契約石数とを対比のうえ二八、六石(五二、九一〇円)の増石分が清算されたのが別表三記載の同年四月五日付契約分までのものであるから、右契約分と同年一月三一日付契約分のみであり、それ以降の契約分一万石、二、〇〇〇万円については、昭和三二年中に検知引渡がなされたか否か明らかでなく、仮に引渡がなされたとしても、その契約石数と検知石数との対比清算がなされないから、確定した収入金額とみることはできない。仮にそうでないとしても、一ケ月平均伐採量は約二、三〇〇石であるから、昭和三二年一二月中に伐採検知された石数も右数量と同等と推量される。しかして、同年四月五日付契約分までのものを同年一二月三日までに伐採検知を完了していたとしても、同年一〇月五日付以降の契約分のうち検知引渡がなされた石数は約二、三〇〇石(四六〇万円)にすぎないことになるから、右金額を控除したとしても少くとも約七、五〇〇石に対応する約一、五〇〇万円は未だ昭和三二年中に確定した原告の収入金額とはみられない。

また、原告は、秋田木材から被告主張のように売買代金全額を契約と同時に或いは間もなく受領しているが、右金員は、指定林班内の在石数につき折合がつかないので一応みなされた石数に基づいて概算前渡しされたものであり、後に双方立会検知により石数が確定したときは清算されるべき性質のものである。すなわち、石数が確定するまでは、右受領の金員は、仮受金とみなすべきものである。加えて、原告は、右金員受領と引換えに秋田木材に対し、別表三記載の昭和三二年一月三一日付契約の際、額面合計金一、五〇〇万円の約束手形を、同年四月五日付契約の際額面合計金二、〇〇〇万円の約束手形をそれぞれ振り出しており、秋田木材がこれによつて融資を受ける場合には原告においてその割引料を負担することが約されていた。しかるに、秋田木材は昭和三二年一二月三日検知引渡石数と契約石数との差額清算後も、右約束手形を原告に返還していない。それ故、原告は引続き右約束手形金債務を免れておらず、原告が秋田木材から受領した金員のうち右手形金額に相当する金額三、五〇〇万円については依然借入金ないし仮受金の性質を有するから、昭和三二年中の確定した原告の所得とみることはできない。以上要するに、原告の秋田木材に対する売上金額全額を昭和三二年度の総収入金額に計上したのは失当である。

2  同総収入金額のうち日本電柱工業に売却した電柱材の売買代金五二七万五、八九〇円に対して合計金五〇〇万円の同会社振出の約束手形を受領したが、右約束手形は不渡りとなり、右売買代金のうち同会社から弁済を受けた金二二七万円を差引いた未払残代金三〇〇万五、八九〇円については、同会社が間もなく倒産して貸倒れとなつた。加えて、右取引においては、右弁済を受けた金額を上回る伐採、造材、剥皮、運搬等の経費(電柱材搬出費)金二三四万五、八九五円を原告が負担したので、結局原告は、右取引により山元価額石当り二、〇〇〇円として一、八六二石分、三七二万四、〇〇〇円の損失を受けた。したがつて、日本電柱工業に関する売上金額五二七万五、八九〇円を収入金額として計上したのは失当である。

3  山林所得の必要経費のうち取得価額について

(一) 繋山林分について原告が、訴外杉本合名会社から訴外高橋金五郎を経て繋山林を買受けたのは昭和二一年一〇月一五日であり、その売買代金は六〇〇万円である。しかして、土地と立木の価額比率を被告の主張と同率とみれば立木相当分の取得価格は五五〇万円となる。右取得価額の再評価額は、再評価法別表第一により耐用年数を一〇年とすれば二、八倍であるから一、五四〇万円となり、仮に、耐用年数を被告と同様九年としても二、三倍であつて一、二六五万円となる。また、日本電柱工業との取引における電柱材搬出費は前項のように二三四万五、八九五円である。したがつて、被告の取得価額の計算には誤りがある。

(二) 寺田山林分について

寺田山林は、原告が訴外近津義則の訴外岩手殖産銀行に対する債務金一、五〇〇万円と、同人の未払労賃債務金二〇〇万円合計金一、七〇〇万円を引受け弁済して、その代償に取得したものであつて、右山林には訴外近津義則が伐採した残立木が存するにすぎず、又、立地上劣悪な山林であるため道路建設等に莫大な経費を要し、原告が右山林を取得した昭和二八年から昭和三二年九月までの山林総収入は僅少であつて約一、一五〇万円にすぎない。それ故、同山林の収入金額六八万六、〇〇〇円に対応する取得価額を石数を基準とし計算したのは失当である。

4  山林所得の必要経費のうち管理費について

原告が繋山林を買受けたのは前記のように昭和二一年一〇月一五日である。右山林は、前所有者が戦時中管理を怠つていたため普通以上に手入れを要し、原告が右山林取得後投入した管理費は一、五〇〇万円に達する。したがつて、再評価法適用上の倍数および費消した管理費が合計九〇〇万円であるとの被告の主張は失当である。

第五、原告の右主張に対する被告の答弁

一、認否

1ないし4の事実はすべて争う。

二、主張

1  原告の主張1に対して

原告と秋田木材間の前記売買契約は、原告主張の契約類型のうち契約締結のときに立木の所有権が移転するいわゆる立木契約であつて、昭和三二年中に締結された右契約に基づく売上金額全額は当該年度において収入する権利の確定した金額とみるべきであるから、被告において昭和三二年分の総収入金額に算入したのは当然である。その根拠を述べれば次のとおりである。

(一) 通常、出材契約であれば契約書の標題に「素材(または丸太)契約書」と記載されるのに、本件の各契約書(乙第七ないし第一〇号証)の標題はいずれも「立木契約書」となつている。

(二) 各契約書の記一において、契約石数を契約当日または数日後に直ちに引渡すことにしており、右の引渡の時はいずれも昭和三二年中とされている。

(三) 同記二において、立木のままで石数金額が定められている。

(四) 昭和三二年一月三一日付売買契約の際の契約書(乙第七号証)の記一中の「毎木調査………」は契約と同時に所有権が移転することを前提として、両者間の取引が初めてなので引渡の時に間が生じないようにするための附帯条項である。

(五) 同年四月五日付売買契約書およびそれ以降の各契約書(乙第八ないし第一〇号証)の記二但書の「この石数は出石をいう」とある記載は、秋田木材側が契約石数の確保を図る意味から原告の了解を得て挿入した附帯条項である。

(六) 各契約書の記の末条にはいずれも「その他前条になきことは商慣習による」と記載されているが、これは例えば、立木の搬出前に火災、盗伐等による損害があつた場合には買主秋田木材で右損害を負担することを意味し、立木の所有権が買主たる秋田木材に移転したとの認識を前提にしている。

(七) 買主である秋田木材は立木契約と認識して締結しており、また、伐採、造材、搬出の経費一切を買主秋田木材が負担している。

(八) 売買代金の授受は、別表三記載のとおり事実上昭和三二年中に終了しており、昭和三三年に入つてから改めて出材契約に基づいた最終精算は行なわれていない。

2  同2に対して

原告が日本電柱工業から額面五〇〇万円の約束手形を受領したこと、右手形が不渡りとなつたことは認めるが、未払残代金額並びに右代金債権が貸倒れになつたとの主張は争う。すなわち、日本電柱工業は、昭和三二年四月一日から同年六月三〇日までの間に合計金二四九万七、五四八円を弁済し昭和三二年末現在の未払残代金は金二七七万八、三四二円にすぎない。また、所得税法上所得金額を決定するにつき計上し得る損失額は、当該年度内に損失として確定したものに限られると解すべきであるから(権利確定主義)、貸倒債権を損失に計上するためには債務者の所在不明、破産または消滅等損失を生ずべき事実が発生し、そのため債権の取立が不能となり、または債権を放棄したという事実が当該年度内に確定したものでなければならない。しかるに、日本電柱工業は昭和三二年末にあつてもなお事業を継続しており、右のような事実は存しないから、日本電柱工業に対する前記売掛債権を貸倒債権として昭和三二年度の山林所得計算上の必要経費として計上することはできない。また、原告は造材、搬出、剥皮の経費を原告において負担し、その金額は、二三四万五、八九五円であつたと主張するが、右経費の原告負担であることは認めるけれども、その額は一二〇万円にすぎず、これは必要経費として譲渡経費(別表四の伐採運搬費一二〇万円)中に計上している。また、原告は山元価格を石当り二、〇〇〇円としても三七二万四、〇〇〇円の損失をしたと主張するが、取得価額は必要経費として、取得価額中繋山林分三九一万〇、四九〇円のうちに計上しており、右各主張はいずれも失当である。

第六、被告の右主張に対する原告の反論

一、被告の主張1のうち(一)に対して、原告と秋田木材間の各売買契約は、原告と秋田木材盛岡出張所主任木村政義との間に締結されたものであるが、契約締結の際、当事者双方の指定林班内所在石数の見積が違うため、いわゆる立木契約によることが出来ず、検知引渡により確定する石数によつて取引する出材契約とすることにしたものであり、ただ秋田木材本社の意向に従うために契約書上は立木契約の体裁を整えたにすぎない。

二、同(二)に対して、各売買契約書記一記載の引渡されるべき石数は、一応該当林班内に生立すると見做される石数にすぎず未だ確定した石数ではない。すなわち、石数の確定は昭和三二年一月三一日付契約においては毎木調査が引渡の前提条件とされているのであるから、本来は右毎木調査により確定される訳であるが、実際は毎木調査がなされておらず、また、その後の契約においては毎木調査が省略されているので、結局各契約書の記一記載の「搬出の際の立会検知」により確定されるのであり、同記二但書記載の「この石数は出石という」とはその趣旨である。

三、同(三)に対して、各契約書の記二は立木のままで石数金額を定めているが、これは価格取決めの方法にすぎないから立木契約であるとの根拠にはならない。

四、同(四)、(五)に対して、前記二記載のとおりである。

五、同(六)に対して、各契約書記末条の商慣習の記載は例文にすぎない。実際においては、出材引渡までの危険負担を原告において負担していた事実がある。

六、同(七)に対して、秋田木材が伐採、造材、搬出一切の費用を負担したことは争わないが、右経費負担をいずれにするかは単価取決めの要件にすぎない。すなわち、本件において石当り単価を立木単価によつて取決めたことは右経費負担を買主に帰することとした取引であることを意味するにすぎず、そのことは出材契約の性質と矛盾するものではない。

七、同(八)に対して、原告が売買代金を契約と同時或いはその後間もなく支払を受けていることは争わないが、前記原告の主張(第四の二の1)のように、右受領の金員は借入金ないし仮受金の性質を有するというべきものであるから、この点は立木契約の根拠とはならない。

八、次の点は立木契約と解することと矛盾する。

(一)  同年四月五日付の契約書(乙第八号証)添付協定書によれば、対象物件中長材を伐採する場合の検尺方法につき、契約成立後においても買主の自由に一任されず、売主の発言権が留保されている。

(二)  秋田木材は、契約対象である指定林班内立木全部を完全に伐採していない。また、原告は秋田木材が根元から伐採せずに根上り一尺以上もある個所から伐採するので、その不経済な伐り方を改めるよう再三注意した。

(三)  原告は、秋田木材との取引と同じ時期に、日本電柱工業など秋田木材以外にも立木を売却したが、その立木のうちには秋田木材に売却した指定林班区域内のものも少くない。

第七、証拠関係

原告は甲第一、第二号証を提出し、証人向井薫の証言を援用し、乙号各証の成立を全部認めた。

被告は、乙第一号証の一ないし七、第二ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一八号証、第一九、第二〇号証の各一、二、第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第二四ないし第二六号証の各一、二、第二七号証、第二八ないし第三一号証の各一、二、第三二号証、第三三ないし第三五号証の各一、二、第三六号証、第三七ないし第三九号証の各一、二、第四〇ないし第四三号証、第四四号証の一ないし六、第四五号証の一ないし三、第四六ないし第四八号証、第四九号証の一ないし四、第五〇号証の一ないし七、第五一号証の一、二、第五二号証、第五三号証の一ないし八、第五四ないし第六三号証、第六四号証の一、二、第六五ないし第六九号証、第七〇号証の一ないし四、第七一ないし第七四号証、第七五号証の一ないし三、第七六、第七七号証、第七八号証の一ないし五、同六の12、同七、同八、第七九号証、第八〇号証の一、同二の12、同三、第八一号証の一ないし三、第八二号証の一、二、第八三号証、第八四、第八五号証の各一、二、第八六号証の一、二、同三の12、第八七ないし第九四号証、第九五号証の一ないし一〇、第九六ないし第九八号証、第九九号証の一ないし四、第一〇〇ないし第一〇二号証、第一〇三号証の一、二、第一〇四、第一〇五号証、第一〇六号証の一、二、第一〇七ないし第一一六号証、第一一七号証の一ないし四、第一一八ないし第一二六号証を提出し、証人橋元邦雄の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、請求原因第一項の事実および同第三項の事実のうち、原告主張の日に再調査請求および右請求に対して棄却決定がなされたこと、原告主張の日に審査請求がなされたが本訴提起時(昭和三七年一〇月二日)までに右審査請求に対する裁決の通知がなされていないとの事実はいずれも当事者間に争いがなく、本件記録(第三分類中、仙台国税局長の送付にかかる裁決書謄本)によれば、右審査請求に対する仙台国税局長の裁決は昭和四三年二月二八日になされたことが認められる。しかして、審査請求に対する裁決がない場合の課税処分取消訴訟の出訴期間については制限説、無制限説の争いが存するけれども、本件においては訴訟係属中に裁決があつたのであるから、右制限説によつた場合でも本件訴を適法と解することができる。そこで、進んで本件再更正処分並びに重加算税額賦課決定処分の適否について判断する。

二、本件再更正処分の適否について

1  本件再更正処分の課税標準である山林所得金額四、五三八万五、〇〇〇円の計算根基として被告の主張する別表二記載の項目のうち、原告は山林所得の総収入金額、同必要経費を争うのでまず右争点について逐次判断する。

(一)  総収入金額

(1) 別表二記載の総収入金額のうち清枝木材分、佐々木恵次郎外一一名分(以上、繋山林分)、宮崎亀治分、佐々木恵次郎分(以上、寺田山林分)の収入金額については当事者間に争いがない。

(2) そこで、まず秋田木材分の収入金額について判断するに原告と秋田木材との間に別表三の契約年月日欄記載の日に同表指定林班、樹種、石数、金額各欄記載の内容の契約が締結され右売買代金は同表支払年月日欄記載の各日に同支払方法欄記載のように小切手もしくは約束手形をもつて支払われていることは当事者間に争いがない。原告は右売上金額の山林所得として計上すべき帰属年度を争うものである。問題の要点は税法上の取扱いとして国税庁長官の基本通達により「収入金額とは収入すべき金額をいい、収入すべき金額とは収入する権利の確定した金額をいうものとする。」(基通一-一九四)、「山林所得については権利の確定する時期は立木又は伐木の譲渡に因り当該立木又は伐木の所有権が移転する時による。但し、その移転の時が明らかでないものについては、当該譲渡契約が効力を生じた時とする。」(基通一-二〇一)とされていることとの関係で所有権移転時期に関し、原告と秋田木材間の右売買契約が、林班指定によつて立木を特定し、契約と同時に立木の所有権が移転するいわゆる立木契約であるか(右売上金額全額は昭和三二年度の収入金額に計上すべきものとなる)、出材検知によつて伐木を特定し、その時に所有権が移転するいわゆる出材契約であるか(昭和三二年度中に出材検知を経た石数のみが、当該年度の収入すべき金額として確定したとみることができるにすぎず、すでに支払を受け売買代金があつてもそれは仮受金ないし借入金の性質を有するにすぎない。)という点にある。成立に争いのない甲第二号証、乙第六ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一八号証、第一九、第二〇号証の各一、二、第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第二四ないし第二六号証の各一、二、第二七号証、第二八ないし第三一号証の各一、二、第三二号証、第三三ないし第三五号証の各一、二、第三六号証、第三七ないし第三九号証の各一、二、第四〇ないし第四三号証、第四七号証、第四九号証の一ないし四、第五〇号証の一ないし五、第五一号証の一、二、証人橋元邦雄の証言並びに前記争いのない事実を総合すると、次のように認定し判断することができる。

実際取引でなされている典型的ないわゆる立木契約は、林班指定の方法によつて立木の範囲を定め、立木のまま売買し、立木引渡の日は契約締結の日とされ、伐採は買主側が行い(したがつて、価格は立木価格によることになる)林班内の見積石数と実際の石数が違つていた場合にも精算をしない山林取引の型態であり、契約書の標題も、立木売買契約書とされるのが通常であるのに反し、いわゆる出材契約は、売主側が伐採、造材をなしてその素材を売買するもので素材契約或いは丸太契約ともいい、石数と金額を定め、引渡の日は出材検知の日とし、価格は出材価格による山林取引の型態であり、契約書の標題は素材(または丸太)売買契約書とされるのが通常である。本件各売買契約書の標題はいずれも立木売買契約書となつており、契約対象たる立木の特定のために林班の指定がなされ、立木引渡時は、別表三記載の昭和三二年一月三一日付契約においては毎木調査終了の時、その余の契約においては契約締結の日とされ、いずれも立木のままで引渡を行うものとされている。価格は立木価格により定められ、また、売買代金支払の日は、出材通知とはかかわりなく、別表三の支払年月日欄記載のように契約締結の日或いは契約締結の日から二週間以内に定められていて、右各日に手形小切手により現に支払がなされている。加えて、原告、秋田木材間の本件取引においては、伐採、造材、搬出一切の費用および危険負担が秋田木材側の負担とされており、秋田木材側は、立木契約締結の意思で本件契約を締結したことが窺われる。以上の点からみて、原告、秋田木材間の本件各売買契約は、いわゆる立木契約と認めるのが適当である。別表三の同年四月五日付契約書およびその後の契約書(乙第八ないし第一〇号証)の記二に「この石数は出石をいう」と記載されているが、これは、右契約書の記一の条項で、双方の林班内所在石数の見積が違うため、一応右各契約書記裁の石数が存在するものとみなして林班内所在立木(杉)全部を売買の対象としたうえ、右みなし石数と出材検知により確定した石数とが違う場合に備えて金銭的精算をすることを約している(このことは、みなし石数をもつて契約石数として保障することを意味することになる)ので、これを受けたものとみられる(右精算のためには、出材検知を経た石数(出石)によるほかはない)から立木契約を否定する根拠とはなし得ないし、同年四月五日付契約において長材を伐採する際の検尺方法につき売主たる原告に発言権が留保されているけれども、前記のように出材検知により確定した石数によつて精算することが約されているのであるから、伐採の際の検尺方法につき、売主たる原告が利害関係を有することは当然であり、また、日本電柱工業、佐々木恵次郎外一一名に売却した杉立木が繋山林の立木であることが認められるけれども、日本電柱工業売却分は、秋田木材に売却する以前に伐採したことが明らかであり、佐々木恵次郎外一一名分についても、秋田木材に売却したと同一林班内から伐採したとの事実が認められないのみならず、石取引は丸太売買であるから、伐採時期が秋田木材に売却する以前である可能性が十分にある。原告が秋田木材に対し、同年一月三一日付契約の際額面合計一、五〇〇万円、同年四月五日付契約の際、額面合計一、〇〇〇万円の約束手形を振出しているが右手形振出は、原告から融通手形を振出してもよいとの申出と、秋田木材側の資金繰りの関係、それに原告と秋田木材間の山林取引が初めてであるうえ、前記のように伐採検知前に売買代金全額を支払うため、契約保障の意味でなされたものとみられるから、この点も立木契約と矛盾することにはならない。

以上のように認定判断することができる。

右認定判断と異なる甲第一号証、証人向井薫の証言は信用することができず、ほかに右認定判断を覆すに足りる証拠はない。右認定判断したところによれば、原告と秋田木材間の本件各売買契約はいわゆる立木契約であるから、立木の所有権はいずれも昭和三二年中に移転したものであり、したがつて、代金債権も同年中に確定したものといわなければならない。しかして、前記国税庁長官の基本通達における山林所得の権利確定時期の認識基準は相当として是認することができるから、右取引による売上金額合計金六、〇〇五万二、九一〇円は、昭和三二年度の山林所得の収入金額として計上するのが相当である。したがつて、支払のために振出された約束手形、小切手を借入金、仮受金として処理することの失当であることはいうまでもない。原告の主張は失当である。

(3) 次に、収入金額のうち日本電柱工業分について判断する。原告は、昭和三二年中に原告と日本電柱工業との間に別表二記載の山林取引がなされたことを認めたうえで、その売上金額五二七万五、八九〇円のうち未払残代金が三〇〇万五、八九〇円存するとし、右未払残代金は、日本電柱工業の倒産によつて貸倒れになつたと主張する。税法上、ある年度に債権の貸倒れが生じたとしてその額を当該年度の損失(これは必要経費である)として計上することができるのは、債務者の所在、不明、破産または和議手続の開始、事業の閉鎖、その他右に準ずべき事情が生じ、そのために債権の回収不能もしくは債権の放棄という事実がその年度中に確定した場合でなければならないと解するのが相当である。しかるに、成立に争いのない乙第四四、第四五号証の各一ないし三、第四六ないし第四八号証、証人橋元邦雄の証言によれば、日本電柱工業は売買代金五二七万五、八九〇円に対して五〇〇万円の約束手形を振り出したが右手形は不渡りとなつたこと、日本電柱工業は右売買代金のうち昭和三二年四月一日から同年六月三〇日までの間に五回にわたり合計金二四九万七、五四八円弁済したのみで、同年末現在未払残代金が二七七万八、三四二円存することが認められるけれども、前記回収不能とみなし得る事情ないし債権放棄の事実についてはこれを認めるにたりる証拠はなく、右によれば、原告の日本電柱工業に対する右残代金債権は、昭和三二年中には未だ貸倒れとして同年中の損失に計上し得る状態になつてはいないとみるのが相当である。また、原告は、前記貸倒れがあるほかに、右取引においては原告が弁済を受けた金額を上回る伐採、造材、剥皮、運搬等(以下、電柱材搬出費という)の経費合計金二三四万五、八九五円を原告において負担し、結局原告は山元価格石当り二、〇〇〇円として一、八六二石分、金三七二万四、〇〇〇円の損失を受けたことになると主張する。右電柱材搬出費が原告の負担であつたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第四八、第九一、第一一四、第一一九各号証、証人橋元邦雄の証言によれば、右費用は多くても一二〇万円であつて、右金額は前記売買代金中に含まれていることが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。そうして、右経費が、譲渡経費中に計上されることは後記のとおりである。また、原告の右主張は、取得価額を必要経費として控除するのを見過しているものであつてその理由のないことはいうまでもない。したがつて、日本電柱工業分収入金額は五二七万五、八九〇円というべきである。

(4) 以上、秋田木材分、日本電柱工業分収入金額に、争いのない収入金額を合計すると山林所得の総収入金額は七、二八二万七、一一九円となることが認められる。

(二)  必要経費のうち取得価額について

(1) 繋山林の取得価額

成立に争いのない乙第四九号証の一ないし四、乙第九〇ないし第九四号証、第九五号証の一ないし一〇、第九六ないし第九八号証、第九九号証の一ないし四、第一〇〇ないし第一〇二号証、第一〇三号証の一、二、第一〇四、第一〇五号証、第一一九号証、証人橋元邦雄の証言ならびに前記争いのない事実を総合すると、原告は、昭和二二年一二月三日、杉本合名会社から繋山林を金三〇〇万円で買受けたこと、右三〇〇万円のうち土地代を除いた立木相当分の価格は金二七五万円であること、昭和三二年度の繋山林分収入金額七、二一四万一、一一九円を含めて、繋山林取得後の総売上高(残立木の評価額を含む)は金一億一、〇九五万四、四四六円(明細は別表九記載のとおり)であることが認められ、右認定に反する前記信用する部分を除く乙第九三、第九七号証は信用することができず、ほかに右認定を覆すにたりる証拠はない。右認定した事実によれば、昭和二七年一二月三一日以前に取得した山林であるから、再評価法第九条および第二〇条第二項により右取得価額(立木相当分二七五万円)に同法別表第六記載の取得の時期に応ずる倍数(二、二倍)を乗じて取得価額の再評価額を算出すると再評価額は六〇五万円となる。この金額に、当該山林の総売上高に占める昭和三二年度の収入金額の割合を乗じて、当該年度の収入金額に対応する取得価額を算出する訳であるが、昭和三二年度の繋山林の収入金額中には日本電柱工業分五二七万五、八九〇円が含まれ、右金額のうちには、前記のように原告が負担した電柱材搬出費一二〇万円が含まれており、右費用は後記のように譲渡経費として計上されるから、取得価額を算出する基礎となる収入金額(および総売上高)から、右費用を控除しなければならない。しかして、昭和三二年度の必要経費として控除すべき繋山林の取得価額は計算上三九一万〇、四九〇円となることが認められる。

(2) 寺田山林の取得価額

寺田山林は、原告が昭和二八年六月一〇日訴外近津義則から代金一、七〇〇万円で取得したものであること、昭和三二年度の寺田山林の収入金額が六八万六、〇〇〇円、売上石数が五、〇七七石であることは当事者間に争いがない。右事実によれば山林の取得時期は、再評価法の基準日後であるから再評価法の適用がなく、昭和三二年度の収入金額に対応する取得価額は、寺田山林の総売上高に占める当該年度の収入金額の割合を乗じて算出される。ところで、原告は右計算の基礎となるべき総売上高を約一、一五〇万円であると主張し、被告は、総売上高が不明であるとして、石数按分により計算する。しかるに、原告の右主張事実はこれを認めるにたる証拠はなく、成立に争いのない乙第一〇六号証の一、二、第一〇七ないし第一一一号証、第一一九、第一二六号証、証人橋元邦雄の証言によれば、被告の調査によるも昭和三一年以前の売上高は不明であるが、寺田山林の全伐採石数は、四万三、八五二石(明細は別表一〇記載のとおり)であることが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。しかして、右のような場合に昭和三二年度の必要経費として控除すべき寺田山林の取得価額を、全伐採石数に占める昭和三二年度の売上石数の割合を乗じて算出した当該年度の売上石数に対応する取得価額とすることも止むを得ない処理として是認することができる。そうすると右寺田山林の取得価額は計算上一九六万八、一八八円となることが認められる。

(3) 前記繋山林取得価額と寺田山林取得価額を合計すると、山林所得の必要経費として計上すべき取得価額は五八七万八、六七八円となる。

(三)  必要経費のうち管理費について

原告が繋山林を取得した時期が、昭和二二年一二月三日であることは前記のとおりであり、成立に争いのない乙第四八、第八九、第九一、第一一九各号証、証人橋元邦雄の証言によれば、右山林取得後に、原告が右山林の管理のために支出した費用は、昭和二三年一五〇万円、同二四年から二六年まで各年二五〇万円合計金九〇〇万円であること、同二七年以降は管理費を上回る間伐材の売上収入があつて、管理の費用はこの収入金額により十分賄われ、実質的な費用負担はなかつたこと、寺田山林は成育した立木を買受けてそのまま売却したので、管理費用はかからなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。右認定した事実によると、必要経費として計上すべき管理費は、繋山林の管理費用のみであり、右管理費については再評価法の適用があるから、再評価法第二〇条第二項により、前記各年に支出した管理費にそれぞれ同法別表第六記載の各年の最高倍数を乗じて再評価額(一、一八五万円となる)を算出し、昭和三二年度の繋山林の収入金額(取得価額の算出の場合と同様、日本電柱工業分売却収入のうち電柱材搬出費に相当する一二〇万円を控除する)に対応する管理費を右収入金額の繋山林総売上高(収入金額と同様電柱材搬出費一二〇万円控除)に占める割合を乗じて算出すると七六五万九、三九一円となることが認められる。

(四)  必要経費のうち譲渡経費について

成立に争いのない乙第一一号証、第一九号証の一、二、第四八、第九一号証、第一一二ないし第一一四号証、第一一九号証、証人橋元邦雄の証言によれば、前記日本電柱工業の電柱材搬出費一二〇万円を含めて譲渡経費として計上すべき原告の支出の明細は別表四記載のとおりであり、これを総計すると譲渡経費は三一八万七、八五二円であることが認められる。

2  以上の結果に基づき、前記山林所得の総収入金額から必要経費すなわち取得価額、管理費、譲渡経費の合計額を控除すると山林所得額は一、六七二万五、九二一円となる。しかして、総所得のうち配当所得、不動産所得、事業所得、全体の所得にかかる共通経費の数額が、それぞれ別表二の配当所得の金額、不動産所得の損失、事業所得の損失(不動産所得、事業所得は損失)、全体の所得にかかる共通経費の各欄に記載のとおりであることは原告の明らかに争わないところであるから、別表二記載の経緯で、旧所得税法(昭和三二年法律第二七号による改正後の所得税法、以下同じ)第九条第一項本文、同法第九条の三第一項一号、五号による損益の通算をなし、全体の所得にかかる共通経費を控除し、同法第九条七号による山林所得についての特別控除額を控除すると、課税標準たる山林所得金額は四、五三八万五、〇〇〇円となることが認められる。

3  右課税標準たる山林所得金額から所得税額を算出するについて控除すべき金額並びに算出の根拠は別表一一記載のとおりである。もつとも、成立に争いのない乙第一号証の二によれば、原告は、確定申告書の雑損控除欄に火災による損害を記載していることが認められるけれども、成立に争いのない乙第一一六号証によれば、右記載にかかる雑損控除の事由たる火災によつて生じた損害は、保険金によつて填補されたことが認められるから、旧所得税法第一一条の四第一項によつて控除すべき雑損失は存しないこととなる。そこで、別表一一記載のとおり(扶養親族など被告主張の事実については原告の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。)所得税を計算すると、右税額は二、〇四五万一、四一〇円となる。

してみると、本件再更正処分には何等の違法は存しないといわなければならない。

三、本件重加算税額賦課決定処分の適否について

成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証の一ないし七、第二ないし第五号証、第四一、第四二号証、証人向井薫、同橋元邦雄の証言並びに前記確定した事実を考え併せると、次の事実を認めることができる。原告が被告に提出した確定申告書に記載されている山林所得の収入金額は、繋山林売却収入五五〇万円と一、五〇〇万円の二口だけで、右のうち五五〇万円は、前記判断にかかる山林所得の総収入金額のうち清枝木材分の売上金額で、原告と清枝木材間の昭和三二年七月二〇日付立木売買契約(乙第三号証)に基づくものであり、一、五〇〇万円は、同総収入金額のうち原告と秋田木材間の別表三記載の同年一月三一日付売買契約に基づく売上金額の一部で、原告が過少申告の目的をもつて、右売買契約に関し、当時、秋田木材盛岡出張所主任であつた訴外木村政義に依頼して、真正な杉立木売買契約書(乙第七号証)とは別に作成した虚偽の売買契約書(乙第二号証)すなわち、真実は石当り二、〇〇〇円のものを一、五〇〇円、契約数量一、五〇〇石、金額三、〇〇〇万円のものを一、〇〇〇石、一、五〇〇万円とそれぞれ過少に書き替えた契約書に基づくものであり、原告が、その使用人である訴外山本千里に右二通の契約書を手渡し、他には当該年度の売上金額は存しない旨告げて、所轄税務署へ申告させたものである。以上の事実が認められ、右認定を覆えすにたりる証拠はない。右認定した事実によれば、本件確定申告は、故意に真実になされた取引を隠ぺいし、仮装の売買契約に基づいてなされていることが明らかである。しかして、旧所得税法第五七条により、前記真実の山林所得金額に対する所得税額から、原告の申告した山林所得金額六一一万二、五〇〇円に対する正当税額一五五万四、八五〇円を差引き、その増差額に対して一〇〇分の五〇の割合を乗じて算出した本件重加算税額賦課決定処分は適法といわなければならない。

四、以上のとおりであつて、本件再更正処分並びに重加算税額賦課決定処分はいずれも適法であり、これを違法としてその取消を求める本訴請求は理由がなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 田辺康次 裁判官 佐々木寅男)

別表一

昭和三二年分申告所得税の申告から再更正処分に至る経過表

<省略>

別表二

山林所得金額の計算内訳表

<省略>

<省略>

別表三

秋田木材(株)に売却した山林の明細および代金支払の内訳

<省略>

別表四

譲渡経費について

<省略>

別表五

配当所得の金額

配当収入の内訳は次のとおりである。

<省略>

別表六

不動産所得の損失

<省略>

別表七

事業所得の損失

<省略>

別表八

全体の所得にかかる共通経費

(共通経費は各所得の種類毎に按分のうえ、所得の計算をすべきところであるが、その区分が困難であり、かつ、所得税法(昭和三二年法律第二七号による改正後の所得税法(以下所得税法という。))第九条の三の規定により損益通算すれば、差引所得は山林所得のみになり最終的には同じ結果となるので、便宜共通経費として計上したもの)

<省略>

別表九

杉本合名会社より取得した繋山林立木の売却収入

<省略>

別表一〇

<省略>

別表一一

所得税の算出過程

<省略>

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